これは滋賀県の篤志家からのご厚意で贈られた貴重な作品。
実は作家が亡くなられて以降、残念ながら数多くの作品が散逸してしまった。こうして対面していると、画伯の知られざる世界を垣間見ている気がする。作画意図に隠れた当時の作者の焦り、迷いも見え隠れする。まるで旧友に再会したかのようでもある。
裏書によれば本作は1969年の製作。僕は1977年以降の作品とほとんど向き合ったが、それはちょうど画伯がラピス・ラズリに似た高価な青絵の具を手に入れたころになる。しかし納得のいく青にたどり着くまでにそれから10年の歳月を要した。本作はまだ作者独特の「青」に出会う前である。
モチーフはともかくゴッホの「青の時代」と重なる様な青を意識した作品が、この辺りから生まれているとも言える。
今回託していただいた方のお陰で、僕の使命がはっきりした。郷土を代表する画伯の作品を一堂に集めて展示する施設を作ろう。そう思い始めている。
滋賀県大津市のS様、気づきを与えていただきましたこと、謹んで御礼申し上げます。