天川栄人著「ぼくたちの卒業写真」

写真業界の先輩からの推薦でこの本を手に取った。本作が扱う素材は、昔から変わらぬ学校の卒業アルバムの「個人ページプロフィール写真」。

卒業アルバムの歴史には、大きな変化はなく昭和の時代から今に至る。一人ずつ写された証明写真のようなスタイルでクラス全員の顔を並べる。これ自体が議論の的になることはあまりないが、写される卒業生は、写真写りに自信が持てず、嫌われてもいるようだ。

「緊張した顔で堅苦しい」、「個人写真はもっと自由に撮られたい」など、不満を持つ生徒も出てくる。しかし、なかなか旧来の撮り方は変えられるものではない。自由な個人写真ページは実現しない。運営上の問題が多いからだ。

撮られる側になってみると、緊張を誘うようなスタジオセットより、自由な服装、自由な場所でロケしたっていいじゃない?

生徒一人ひとりの積極参加型のアルバムは実現しかけては消える。そして担任の先生は撮影のためだけに授業をつぶせない。

撮る側の写真館にも言い分はある。(いまさらどうしろと?)そう言いたいところ。それをテーマにした小説である。

この本を手に取る前は、 (どうせ学園モノ)と乗り気でなかった。 全編、中学生同士の会話文ばかりだが、作者渾身の珠玉フレーズに出くわし、目頭を熱くしてくれる素敵な本。

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