ShortStory「二代目は二枚目」

写真館の二代目「恵」は幼少の頃、親から頂いたこの名前でずいぶんいじめを受けた。

「めぐみちゃんて、女の子みたいや」

そんな逆境を見返そうと恵は格別な思いで勉強した。成績はいつも学年トップ。しかし家は貧乏で進学は許されなかった。そんな父にとっての一番の誇りは枚方の軍需工場への勤労動員。いつも上官から職務精励で誉められた。するとここ一番ますます集中出来た。

父の愛機"Leica 3f"

3fの"f"は、フラッシュシンクロ付きの意味

終戦後郷里の徳島に戻ると、片眼の義父がひとり写真館を支えていた。まだフィルムは配給を受けることができたが、現実はとても営業できる状況ではなかったようだ。しばらくすると映画フィルムを流用したスチールカメラがドイツから入ってきた。恵は全てを犠牲にして高価なバルナック型ライカを手に入れる。戦後の厳しさを恵はライカと共に過ごした。このカメラで恵は女学生を撮りまくった。恵の撮った写真は一世を風靡する。今我々がこのカメラを操ることはどんなに大変なことか。フィルムを装填するだけで大仕事である。当時ロールフィルムは貴重品であった。恵は父から咎められても振り向くことなく、ライカにはまった。とうとうひとり娘の名前も「らいか」と付けたかったが周囲の反対で断念。

いまこのライカを手にしてみて驚く。軍艦部の緻密さ、金属の質感、そして合理的で持つ者を至福に誘う操作性。60年以上の時を経ても人を魅了する。これはもう撮影する機材でなく美術品だ。

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