「告別式」
あの日は早朝に目が覚め
思わずホテルの窓辺から
朝陽に照らされる街並みを撮る
今日は特別の日という
張りつめていた気持ちで一杯だ
近親者だけの式になおさら淋しさは増幅したのだろう
式も終わり火葬場で待つ間
家族達と長閑な安堵のような
かつて経験したことのない時間を過ごした
何かが足らない
喪失感がよぎったが
今思うと不思議と満ち足りた時間だった
淡々と家族の時間が過ぎていく
耐火煉瓦で覆われた焼却炉から
鋼鉄製のベッドが引きずり出される
横たわる父の遺骨
まるで操り人形の部品のように
整然と並んでいる
何を思ったか
遺骨にカメラを向けて
写し始める
無性に悔しさがこみ上げてくる
喪主である兄に静止されるまで
撮り続けた
正直にいうと
眼前に横たわる遺骨に
何も感じない自分が辛かったのだ
何もない
何の思いもない自分が
情けない
なんの意味もない時の流れ
父は偉大なライバルであったはずなのに
仕事にかまけて
父と過ごした時間の少なさを悔いた
2011年