ここに描かれる舞台は若狭から舞鶴辺りだろうか。荒々しい岩礁に行き場を失った赤い襦袢の女。
孝二さんは僕の師であった。彼は長年「元陽会展」招待作家として出品できる立場。無審査の会員ということ。この作品「潮音」は師の晩年の作ではあるが、揺れ動く自身の内面を女の表情と強烈な赤に込めたのだろう。この絵に限って主題の女性の顔立ちが日本人らしく、最初は驚いた。僕の自宅に所蔵する彼の作品にどれをとっても日本人的顔立ちはない。アジア系ではあるがどことなく大陸系、それも中央アジアに近い女性ばかりを描いてきたからだ。
彼は無類のコーヒー好きで、「今日はモカを入れすぎた。明日は12粒にしようか」などと繊細さを示していた。もう一度会ってこの作品のココロを尋ねてみたかった。