ここから始まる川端康成の「雪国」。歴史的名著を手にとってみた。表題の有名な冒頭のフレーズの対極に、意外と知られていない以下のフレーズがある(少し長いがお付き合いを)。
長い トンネル を 通り抜け て みる と、 冬 の 午後 の 薄 光り は その 地中 の 闇 へ 吸い取ら れ て しまっ た かの よう に、 また 古ぼけ た 汽車 は 明るい 殻 を トンネル に 脱ぎ 落し て 来 た かの よう に、 もう 峰 と 峰 との 重 なりの 間 から 暮色 の 立ち はじめる 山峡 を 下っ て 行く の だっ た。 こちら 側 には まだ 雪が なかっ た。
川端康成. 雪国(新潮文庫) (p.68). 新潮社. Kindle 版.
実に名文である。ストーリーは温泉宿と若い芸子の出会いと別れを扱ったもので、読者としては、「勝手にしろ」と言いたくなるような内容だが、見事な散文芸術でもある。エンタテイメントの対極にある世界。たまにはいいものだ。