写真の楽しみ

題名のない景色

きょうの撮影は、大正時代に建築された写真場。祖父が使っていた。取り壊されることが決まっていて、その前に祖父の面影を残しておこうとカメラを持ち込んだ。この写真場は天井の北側半分にスラント窓が設えられていて十分に光を得られるが、コントラストが高すぎるため、早朝の微かな光のほうが結果がいいだろうと考え、二度目の撮影になった。

50年前の姿↑↓

 

今回はシュナイダー・スーパー・アンギュロン90㎜レンズを使う(焦点距離は35mm換算で24mm程度)。理由は大型カメラ用でこれ以上のワイドレンズがないから。今どき珍しい大型カメラ専用のレンズだ。親父の遺品だから大事にしてきた。この20年、デジタル化の波に押されて出番がないままの逸品。だからこそ、ここで大型カメラを使いたかった。しかしながら現代は大判フィルムが手に入らない。では大型カメラにデジタルカメラを取り付けて写せばと、考え方を変えてみた。デジタルカメラの高感度特性と階調コントロールの自由度をどこまで発揮させられるか腕の見せ所。

ギリギリまで光を絞り込んで、甘い画調に仕上げても面白いだろう。昔のフィルム時代でそれを再現しようとすると、とんでもない手間を要した。紙焼き時に赤血塩漂白で暗部を弱めたり、暗室光を近づけて明部をカブらせたり。薄すぎず濃すぎず、程よい溶液を作ることも手探りだった。液が滴れて思わぬ箇所に抜けが生じてしまうこともあり何枚も同じ写真を焼き付けた、あの時代が懐かしい。

もし暗室に他人が踏み込めば鼻をつく酢酸停止液の匂いや、定着液の組成ミョウバンの匂いに思わず顔を背けることだろう。しかし裕史にとっては自分と向き合う暗室作業が一番楽しい時間であった。撮影したらすぐに暗室に駆けて行きたいほど心が躍るのである。父と共に励んだ暗室作業が懐かしい。

今の若いカメラマン達が大型カメラを使うことの楽しさを味わってみるのもいい。何の目的もない被写体に向き合っても楽しさは倍増する。

そこには私心など入り込む余地もない。

写真館二代目1950年頃の撮影

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