半世紀以上も前の話。僕は中学一年だった。担任田村先生は数学を教えるときは冷静な方だったが、時に熱く語る。年齢は高そうだったが記憶がない。新学期が始まると、教室に自慢の軍刀を持って現れた。
「わしは旧帝国海軍大尉である!」
そう言いながら軍刀を高く差し挙げた。もちろん鞘(さや)は抜いていないが。その誇らしい姿に、僕は恐怖を感じるのではなく、 強烈な憧れを抱いた。
「この命、義(他者)のためにこそ燃やすべし」
あの瞬間に武士道精神を刷り込まれたような気がしている。
田村先生、いまようやく理解できました。