伊吹山(滋賀県)

僕にとってこの山は故郷の象徴。この山を眺めるたびに実家の亡き母を思い出す。

「女学校の遠足は伊吹山(さん)を登った。もちろん歩いてよ」。かつて母は自慢そうに語った。一度使い始めるとなかなか手放せない車椅子を携え施設を抜け出し、伊吹山を一緒に眺めた。

昭和一桁生れの彼女の青春。それは戦時と共にあり、何もかもが不自由な世の中だったはずだ。彼女たちの青春は兄弟を戦争で失う苦難の連続。女学校までは軍国主義教育を受け、卒業すると、これからは民主主義だと無理やり強制された。乙女心にそっと秘めた憧れの男たちはみんな戦争に行ってしまい、楽しみもすべて奪われた。価値観逆転の洗礼を受けた世代だ。

翻って、「令和」のこの時代に青春を送る者たち。君たちも後の世に「戦争と憲法改正の時代」、そして「移民の時代」。そう語られるだろう。「平和の世紀」まであと100年かかるかもしれない。

伊吹山山頂近く。標高1377m。1974年秋撮影

遠景に伊吹山。手前が東海道新幹線

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