尊敬する作家・中上健次。その彼の生い立ちに触れる作品があったのでご紹介します。以下引用。
「昭和 二十一年 飢餓 の 喜び に ふるえ た 女 の 陰部 から ビロード の 不幸 を まとっ て 父 の ない 流動体 の スピロヘータ が とびだし た。 四 歳 の 時 髭 の 感覚 を ともなっ た 男 が 網走 までの 片道 切符 を くれ た。 隣家 の 庭 には固い つぼみ の バラ が 神話 を 語っ て い た」
以上、『履歴書』 部分より引用。出典は高山文彦著「 中上健次の生涯 エレクトラ」 (文春文庫)
この詩に作者は、自分を捨てた極道の父親が網走刑務所送りとなり、幼い自分が会いに行くシーンを象徴的に詠んだ。
かつては彼のような<無頼派>とよばれる作家が数多くいた。その生き方は<帰巣本能>に乏しく、家族を犠牲にし、思いつけば出奔していたりする。中上の生態はそれに近い。高山文彦氏による中上研究本「エレクトラ」に詳しい。