宮本輝の作品の中で一番の佳作は「泥の川」だろうか。「優駿」かも知れない。どちらも映画化された。氏の作品「川シリーズ」は一通り読んだが、他に短編集「五千回の生死」が好き。タイトルにもなった表題作が一番のお気に入り。
1981年から立て続けに10作も映画化された。。団塊世代が描くこの時代は「貧乏」がバックグラウンドのひとつになった。しかし今の時代の文学は「存在の根源」に触れるような、他者とのかかわり方がテーマになってきた。だからこそ宮本輝に懐かしさを感じるのだろう。
いつの世も「人間存在」に対する答えを得ようと作家たちはもがく。
宮本輝は本作中で登場人物に「俺、一日に五千回くらい、死にとうなったり、生きとうなったりするんや」。続けて「そんなこと思うの、人間だけやろ」そう語らせている。