二十五キロのリュックを背負い、今夜の宿を探す私。夏の夕暮れでも気温は低かった。
なぜだかローマのスペイン広場を通る。いつの間にか重いトランクを引きずって歩いている。
トランクのキャスターが石畳の溝に食い込み、足を取られながらも進む。ようやく小高い丘の上に昇るとそこは海。
(まさか、ありえない)
しばらく歩くと港の岸壁に浮かぶ船のホテルを見つけて泊まる。食事も摂らず狭いキャビンで一人寝る。部屋の小さな丸窓は開けたままベッドに横たわる。
波の音に交じって、夕暮れのまどろみの中に一晩じゅう子供達のはしゃぐ声が聞こえた。白夜の季節でほんの二時間くらいしか暮れなかった。
(いつの間にかスウェーデンにいる)
翌朝目覚めるとシャワーを浴び、急いで旅支度を整える。
(プレイバックだ!若い頃に戻っている)
出掛けにフロントの朝食ビュッフェから堅いパンをひとつポケットに詰め込む。
一時間は歩いただろうか。焦っても抜けられない道が続く。リュックが重く肩に食い込む。
(トランクはどうしたのだろう)
いつの間にかパリの街角を歩いている。なぜか遠くの山々は朝陽の逆光でハレーションがおきて汗を拭う。アフリカの真っ赤に焼けた大地だ。
(モロッコに飛んでいる)
遠くで列車の警笛が聞こえる。オレンジ色の客車が夕陽を浴びている。一瞬で夕方になっている。
(どうもここはポーランド)
道を教えてくれ! 僕はどこへ行きたいんだ。そう叫ぶ自分がいるが、誰も振り向かない。
約束があるんだと、列車の中でひとり焦る自分。
列車は駅のホームに滑り込む。通勤時間帯だというのになぜか乗客はまばらだ。そう思ったとたん、黄色のヘルメットをかぶった炭坑夫達が列車に乗り込んでくる。
(まさか!ここはポルトガルのようだ)
腕時計を見ると魔法にかけられたのか、辺りは急に暗転して、それが怖くて目が覚める。