東海道本線米原駅の上り線のホームでの出来事。あのとき冷たい伊吹下ろしに煽られ、僕の財布からこぼれ落ちた千円札は線路上を何度も舞う。
幸い四つ折りにしてあって、しっかり折られていたため線路の溝に留まることができた。近くには誰も居ない。駅員の姿を目で探したがいない。諦めようと思ったが待てよ、誰も見ていない。一転、飛び降りる決心。意外に段差があることは承知している。降り立つ場所に細心の注意を払う。枕木で足首を捻るのも情けない。こんな時に自分の悪いクセが出るもんだ。面子やら体裁を気にしていたら決心を躊躇わせる。こんなことは何度もあるわけじゃない。
僅かの躊躇の後飛び降りた。しっかりつかんだ。急いでよじ登る。ホームの高さは僕の首まであった。
僕の判断と行動のスピードは正しかった。1分後には七番ホームを特急が通過するのだから。
駅員に怒られるわけでもなく、きょうの僕には大切な千円札は無事に財布に戻る。
これからこのコインケースに、ついでに千円札まで貯め込むのはやめにしよう。
鉄道の旅は最高です。クルマを使った旅では経験できない何かを発見できる。